ロボティクスとエッジ AI
Enactic 、 NVIDIA のフィジカル AI テクノロジで人型介護助手ロボットの社会実装を加速
目的
深刻な介護人材不足に対応するため、 Enactic は人型介護助手ロボット「Ena (イーナ)」を開発しています。その過程で基盤モデル「NVIDIA Isaac GR00T 」をはじめとする NVIDIA のフィジカル AI テクノロジを活用し、実機と仮想環境を連携。人の動きやモノの配置が変化する非構造化空間で、安全かつ自律的に作業できるロボットの実用化を目指しています。
顧客
株式会社 Enactic
製品
NVIDIA の幅広いテクノロジ スタックを活用し、枕カバー交換をタスクとして非定型作業の学習と実用化の検証を進めています
- Enactic が開発したオープン ソースの双腕ロボット プラットフォーム「OpenArm」と実機検証環境「OpenArm Cell」を使い、シミュレーションと実世界のデータを連携。接触動作と視覚的な環境適応を分けて学習させて、介護現場への汎化を図っています。
- NVIDIA Isaac GR00T に加えて、「NVIDIA Isaac Sim」「NVIDIA Isaac Lab 」「NVIDIA Cosmos 」「DreamZero」「NVIDIA DGX H100」「NVIDIA Jetson Thor」を活用。モデル開発からシミュレーション、学習、エッジ推論まで統合し、機微なデータを扱う介護施設でプライバシーに配慮した運用を目指しています。
- 枕カバー交換の成功率は約 50 % から 約 70 % に向上。今後は 2027 年に介護施設で PoC (概念実証) を実施して、2028 年に製品リリースを目指します。
人型介護助手ロボット Ena 対人非接触業務からの実用化
超高齢社会の日本。 2040 年度には 2022年度比で約 57 万人の介護職員を新たに確保する必要があると推計される中、ロボット開発スタートアップの Enactic は、人型介護助手ロボットの Ena を開発しています。
介護現場などの生活空間は人を基準に設計されているため、ロボットもヒューマノイドの形態が合理的です。一方で、家具の配置やベッドの乱れなど日々状況が変化する環境では、ロボットが固定動作ではなく柔軟に動作を補正しなければなりません。
そこで Enactic は AI の予測不能な挙動によるリスクを避けるため、人に直接触れない周辺業務から実用化する方針を定めました。検証タスクには、頻繁に行われる業務でありながら、ロボットにとって複雑で柔軟な対応が必要な枕カバーの交換を採用。 Enactic の森大 二郎 氏 (代表取締役 CEO) は次のように話します。
「柔らかく形が変わるカバーの端をつかんで中身を引き出し、新しいカバーを被せて形を整える工程には、細かい手の動きが欠かせません。施設ごとの手順の違いや枕の厚みのバラつきにも対応する必要があり、高度な状況判断が要求されます」
株式会社 Enactic
NVIDIA のフルスタック テクノロジで実機とシミュレーションを連携
この課題に対応するため、Enactic が導入したのが NVIDIA のフィジカル AI テクノロジです。決め手は「学習における使いやすさとオープンなエコシステム」と森氏は言います。
検証の要になるシミュレーションと実機の連携で、NVIDIA のテクノロジが中核的な役割を担っています。
基盤モデルには、ヒューマノイド向け基盤モデルの NVIDIA Isaac GR00T を採用。人の一人称視点映像を用いた大規模事前学習、クロスエンボディメント転移が可能な行動空間設計、視覚言語理解バックボーンなどでヒューマノイドが少量のデータで多様なタスクに適応できるよう設計されています。検証ではパラメーターを細かくチューニングして性能を引き出すことでロボットの汎化性能を向上させ、未知のシチュエーションに柔軟に適応できるようにしています。また、NVIDIA の研究チームが公開した World Action Model である「DreamZero」も試行し、動画と行動を同時に予測するアプローチの有効性を検証しています。
非定型環境へ適応するために NVIDIA Isaac Sim により再現された仮想空間内にロボットや環境を配置し、強化学習のフレームワークである NVIDIA Isaac Lab を用いて並列処理させることで効率的な学習を実現しています。グローバルで活用されている OpenArm は NVIDIA Isaac Sim のロボットアセットとしても提供されており、実機と同じ構成のモデルでシミュレーションを行えます。
さらに、世界基盤モデルは NVIDIA Cosmos を採用。照明の変化や物体の配置、シワの寄り方といった視覚インプットを疑似生成することで、AI の汎化能力を高めています。
一方、物体に触れた際の力や動きなどシミュレーションだけでは再現しにくい接触ダイナミクスは、OpenArm Cell を用いて実機でデータを収集。視覚的な環境適応はシミュレーション、物理的な接触ダイナミクスは実機と分けて学習させることで、環境が異なる介護施設に対応できる AI モデルの構築を進めています。
こうした仮想空間と実機のデータをかけ合わせた大規模なモデル学習は、 NVIDIA DGX H100 によって支えられています。
さらに介護現場での稼働には、NVIDIA Jetson Thor によってエッジ デバイスで推論処理を完結させる仕組みを構築。カメラ映像などの機微データを外部に出さず運用できる構成とし、介護現場のプライバシー保護を図っています。
検証の成果について、森氏は次のように語ります。
「当初は約 50 % だった枕カバー交換の成功率が 70 % 近くまで上昇し、手作業の初心者を上回る水準に近づいています。テレオペレーションでも成功が難しい工程なので、現時点では速度よりも仕上がりの確実性を優先して検証しています」
株式会社 Enactic
支援プログラムとエコシステム参画によるオープン イノベーション
Enactic は NVIDIA のテクノロジ スタックだけでなく、スタートアップ支援プログラム「NVIDIA Inception」にも参加することで開発の推進力を強化しています。
同プログラムを通じて「NVIDIA Isaac GR00T」シリーズへ早期にアクセスできる他、オンプレミスとクラウドをまたぐ AI 学習基盤の構築やパラメーター調整で、 NVIDIA から技術サポートを受けています。
さらに Enactic は、世界基盤モデルのグローバル エコシステム構想「NVIDIA Cosmos Coalition」への参画も表明しています。 OpenArm や OpenArm Cell で収集した物理的な接触ダイナミクスなどのデータをエコシステムに提供して、 NVIDIA のプラットフォームと統合させるアプローチをとっています。
Enactic は自社の検証結果をプラットフォームに還元して、各国の開発者から多角的なフィードバックを得ることで、AI の汎化性能のさらなる向上を目指しています。
「OpenArm を通じたデータ コレクションやモデルを積極的に公開して、 NVIDIA のソリューションと統合させることで、オープン イノベーションの軸としてグローバルなフィジカル AI の発展にも貢献したいと考えています」
「学習において、 NVIDIA のソリューションは圧倒的に使いやすいと感じています。基盤モデルがブラックボックスにならず、独自に探求できるオープンなエコシステムが用意されているため、細かなハイパーパラメーターの調整など自分たちのレシピを最適化して、AI の性能を最大限に引き出せます」
森 大二郎 氏
代表取締役 CEO
介護現場での PoC を経て、製品化と事業化へ
検証は現在、実機の性能と AI 制御を融合させる段階です。今後は、 2027 年に遠隔地からの指示に従って動作するロボットを介護施設に投入する PoC を実施します。その結果を踏まえて、 2028 年の製品リリースを目指しています。
Enactic は対象タスクの拡大や介護施設での検証範囲の拡大を進めつつ、エコシステムを軸に NVIDIA との協業を通じて、ヒューマノイド ロボットの介護領域における社会実装を着実に前進させています。